ジェトロセミナーのまとめ:
ニューヨーク州の雇用法についての基礎知識

2015年7月30日、ジェトロ(日本貿易振興機構)ニューヨーク事務所にて、ニューヨーク州の雇用法についてのセミナーが開催されました。セミナーには、60名以上の企業からの参加者が出席し、RBL Partners の代表弁護士、ボアズ麗奈弁護士が講演者となり、セミナーを行いました。当日のセミナーの要約は、下記となります。こちらの情報と詳細は、JETRO World Business Newウェブサイト(日本語)からも、アクセスしていただけます: https://www.jetro.go.jp/biznews/972822d27fb594a9

任意雇用の原則:  ニューヨーク州を含む多くの州では、雇用主と従業員双方の任意の意志に基づく雇用(At-Will Employment)が原則です。この任意雇用の原則は米国の伝統的な雇用原則で、モンタナ州以外の州の雇用規則のベースです。この原則では、雇用主はいつでも従業員を解雇でき、給与や職務内容、勤務地などの雇用状況も雇用主の意志で自由に変更できます。一方、従業員は事前の通知や理由なしにいつでも退職することができます。ただし、任意雇用の原則には幾つかの例外があります。以下に該当すると、従業員から不服を申し立てられる危険が生じるため、注意を必要とします。

  • 正当な理由がない差別的な対応の禁止(人種、性別、年齢、宗教など)
  • 従業員への報復の禁止(従業員による告発行為などに対する)
  • 雇用契約や労働組合契約に反する場合

募集活動と採用: 募集や採用の際に雇用者が募集者の個人情報(例えば、募集者の年齢性別、配偶者の有無、国籍等)を求めることは、日本では一般的とされていますが、米国ではこれは禁止されています。採用されなかった従業員であっても、雇用差別を受けたとして訴訟をする権利があるので、採用時点においても十分な注意が必要です。採用に関してよくある質問として、日本語のテストを従業員に課すことの可否があるが、日本語が職務を果たす上で必要であることを証明できれば問題はありません。

ニューヨーク州では就業規則の作成は義務付けられていませんが、雇用主と従業員の権利、責任について明確にしておくため、会社の規則を記述した雇用ハンドブックを作成することが望ましいです。「就業規則を知らなかった」といった従業員による責任逃れを防ぐため、作成したハンドブックは勤務開始日に従業員へ渡して受領のサインをさせることをお勧めします。ただし例外を除いて、ハンドブックそのものには法的拘束力はないので、常に法律内容に基づくことが大切です。

解雇: 従業員の解雇は、訴訟に結び付く大きな要因になり得るので、特に注意が必要です。解雇を伝える際には、会社側の人間を2人以上同席させ、解雇処分の理由を明確に伝えるべきです。また、解雇時点で未払いの給与などを小切手で支払えるよう準備しておくことが望ましいです。解雇時に締結する別離契約は、ニューヨーク州では法律上義務付けられていませんが、重要な書類となるので締結することが望ましいです。別離契約の目的は、解雇後の会社に対する訴訟放棄や、機密事項の漏えい禁止を引き続き守らせることにあり、退職金などと引き換えに契約を結ぶこととなります。ただし、別離契約を作成する場合においても、法律で義務付けられている文言と矛盾する内容を含む別離契約は無効となるので、注意が必要です。採用から解雇までにおいて重要なのは、一貫した規則や制度を導入し、運用することです。

最低賃金と残業費用: 2014年12月31日~2015年12月30日のニューヨーク州の最低賃金(時給)は8.75ドルですが、2015年12月31日から9.00ドルに引き上げられます。最低賃金の適用には幾つかの例外があり、近親者や17歳未満の未成年者、専門職向けの就労ビザであるH-1Bビザ就労者、チップ制の労働者などは対象外であるか、もしくは別の基準に従う必要があります。不法就労者に対しても最低賃金の支払い義務があり、雇用主が支払い義務を怠っていた場合は、不法就労者の立場にあっても雇用主を訴える権利を持ちます。週40時間以上を超える労働者に対しては、通常の給料の1.5倍の残業手当を支払う必要があります。ただし、役員や管理職といった「エグゼンプト」に分類される従業員は、残業手当の支払いから免除されます。従業員がエグゼンプトに該当するかの判断は、職務内容や業務体制などに応じて事例ごとの判断となるため、必要時には専門家に相談することをお勧めします。

ニューヨーク市の病気休暇提供の義務: 一般的に多くの米国企業は、有給休暇、有給の祝日、有給の病気休暇、医療給付、退職給付といった福利厚生制度を従業員に提供しています。このうち病気休暇の提供は、2014年4月1日から有給病気休暇法(Paid Sick Leave Law)が施行されたことで、ニューヨーク市の雇用主に義務付けられたものです。法律の詳細はニューヨーク市ウェブサイトで確認できますが、ポイントは以下のとおりです。

  • 従業員が5人以上の雇用主は年間最高40時間の有給病気休暇を従業員に提供しなくてはならない。
  • 従業員が5人未満の雇用主は年間最高40時間の無給病気休暇を従業員に提供しなくてはならない。
  • 家庭内労働者(家政婦やベビーシッターなど)を雇う場合、雇用主は年間2日間の有給病気休暇を家庭内労働者に提供しなくてはならない。
  • 適用対象となる従業員、家庭内労働者は年間80時間以上の労働を提供すること。ただし家庭内労働者は1年以上の勤務経験を有すること。

この法律は、自己または家族の治療および介護に適用され、雇用主は従業員に対して勤務開始日に、病気休暇について通知しなくてはなりません。2014年4月1日に有給病気休暇法が施行される以前から勤務していた従業員については、病気休暇についての通知期限は2014年5月1日までとなっています。

上記のトピックで、ご質問等ありましたら、RBL PARTNERSまでご連絡ください。

 

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